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「古都・鎌倉と深く調和した戦後日本を代表する建築」
林 昌二 (日建設計名誉顧問)

小生のお薦めは「神奈川県立近代美術館(略称・鎌倉近美)」です。
 この美術館は鎌倉鶴岡八幡宮の境内につくられ、1951年11月に開館、以後50年の風雪に耐えてきました。数々の受賞に輝き、先頃はDOCOMOMO20選
注) にも選ばれるなど、戦後の日本建築を代表する建築の一つであることに異議を唱える方は少ないと想像しますが、老朽化が指摘され、取り壊しの噂を耳にして驚いています。これまでの土建国家日本の常識に従えば、それもあり得ることに感じられますが、戦後からのスクラップアンドビルドの時代は、歴史的にみればむしろ異常な時代でした。常識的には、並の建築だって100年、少し力を入れて建てられたものなら、200年、300年と使い続けられるのが当然のことです。

 鎌倉近美が「よい建築」と思う理由を記します。
 一つは歴史的意義です。
断面詳細図をご覧ください。その鉄骨の、なんと華奢なことでしょうか。細い部材を組み合わせて構成されたラチス梁など、鉄鋼生産量世界第一、二位を争うほどの鉄の国になった現在の日本では、想像もできないほどの貧弱さです。しかも噂によれば、その貧弱な鉄骨のかなりの部分が、解体された軍用施設の古材の再利用だそうです。戦後まもない時期、人々が日々の暮らしにも事欠き、戦災で失われた住宅を再建するのに精一杯だったときに、あえて日本では初めて、世界でも3番目の近代美術館を建てようとしたのは、壮挙と言うべき志でした。それを支えた人々、実現のために、設計に、材料の調達に、力を尽くした人々の労苦が忍ばれるというものです。その結果、世界に誇る水準の建築物がつくり上げられたのでした。この国のもっとも苦しかった時代に先輩たちが成し遂げた偉業が、小説や伝聞の世界ではなく、具体的な建築物として私たちの目の前に存在するとは、なんというすばらしいことでしょうか。

 もう一つ、環境的な意義があります。鎌倉近美を取り巻く環境は、美しい自然を残しています。鎌倉近美の浮殿のような構えは、その軒裏に水面の反射を映すなど、日本の伝統の美学を感じさせます。そればかりでなく、鎌倉近美は参拝者の絶えない八幡宮とともにあることによって、歴史的時間の中での深い調和を見せています。ここまで空間・時間の味わいの深い環境がつくり出されている例は、稀なものと言えます。  この「よい」建築にきちんと手を入れ、立派に蘇生させ、今後も長く使い続けていくことが、この時代に生きる者の使命であると感じます。

※出展:建築ジャーナル2003 01 No.1040「特集:地域主義のかたち」より
※写真は林氏設計の「三愛ドリームセンター(DOMOMO100選)」前で  写真提供:日建設計

注)DOCOMOMO20選:DOCOMOMO(Documentation and Conservation of buildings, sites and neighborhoods of the Modern Movement)とは、1989年に設立された近代運動に関する建物と環境形成の記録調査および保存のための国際的な非営利団体。現在、西ヨーロッパを中心に30ヵ国以上が参加する。日本では1998年に日本建築学会を中心とするワーキンググループが組織され、20件の近代建築を選定。2000年1月から3月まで「文化遺産としてのモダニズム建築展 DOCOMOMO20選」が神奈川県立近代美術館で開催された


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小川待子展についてのコメント(柳澤 雅子氏/ICE 都市環境照明研究所)2002.08.27
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